先に、この記事で答えられることと、答えられないことを書きます。答えられるのは、浴室の鏡のウロコがなぜ拭いても取れなくなるのか、その仕組みのほうです。答えられないのは、お住まいの鏡がどちらなのかです。見た目のひどさと、落としやすさは一致しません。白く曇って見える鏡が思ったより戻ることもあれば、うっすらとしか見えない鏡が動かないこともあります。だからこの記事は、境目の線を引く代わりに、なぜ線が引けないのかまで書きます。
鏡の白い曇りは、汚れが乗っているのではありません
浴室の鏡が白く曇るとき、そこに何かが「付いている」というより、何かが「残っている」と考えたほうが実態に近くなります。
水道水には、目に見えない成分が溶けています。鏡に水滴が飛んで、そのまま乾くと、水だけが空気中へ出ていき、溶けていた成分は鏡の面に取り残されます。1回では見えません。ところが浴室の鏡は、毎日ほぼ同じ位置に水滴が当たり、同じ位置で乾きます。乾いた回数だけ、同じ場所に残る成分が重なっていきます。
この重なりが、光の反射を乱すところまで育つと、白い曇りとして見えるようになります。輪郭が丸く連なって見えることから、ウロコと呼ばれます。つまりウロコは、汚れが表面に乗っている状態の名前ではなく、乾いた跡が積み重なった状態を指す言葉です。
拭いても動かなくなるのは、面と一体になっているからです
表面に乗っているだけのものなら、上から力を加えれば動きます。ホコリも、飛び散った石けんの泡も、そうやって離れます。
ところが乾いて残った成分は、乗っているのではなく、鏡の面の細かい凹凸に入り込んだ状態で固まります。上から拭く力は、面に乗ったものを横へ動かす力です。面の中に入り込んで固まったものに対しては、その力が届きません。「拭いても白いままだった」というご相談が多いのは、力の向きと、汚れがいる位置が噛み合っていないからです。
そしてもう1つ。浴室の鏡に残るのは、水道水の成分だけではありません。石けん、シャンプー、皮脂が同じ面へ飛び、それらが混ざったまま乾きます。何がどう混ざって固まっているかは、鏡ごとに違います。
見た目のひどさと、落としやすさは一致しません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
白く曇って鏡としてほとんど使えない状態でも、実際に手を入れると思ったより戻る鏡があります。逆に、写真で見るとうっすらとしか曇っていないのに、手をかけても動かない鏡もあります。ひどく見えるものほど落ちにくい、という順番にはなっていません。
ですから、「ここまでの曇りなら落とせます」「これ以上は落とせません」という境目を、こちらから先に引くことができません。引けるように見える説明は、たいてい見た目の程度だけを物差しにしていますが、その物差しが結果と対応していないからです。
結果を動かしているのは、いくつもの条件の重なりです
では何で決まるのか。関わる要素はいくつか挙げられます。
- その地域の水質。水道水に溶けている成分の量や種類は、地域によって違います
- 石けんやシャンプーの成分が付いたまま放置された期間。混ざったまま乾いた回数が積み上がるほど、状態は複雑になります
- 鏡の面そのものの状態。もとの面がどうなっているかで、成分の入り込み方が変わります
ただし、この3つはどれも、単独の物差しにはなりません。「水が硬い地域だから戻らない」とも、「使い始めて日が浅いから戻る」とも言えません。これらが重なった結果として、その鏡の今の状態があります。同じ地域の、同じ設備の家でも結果が揃わないのは、このためです。
だから、写真か現地で見せていただく工程が先に入ります
判断の材料は、記事の中ではなく、その鏡そのものにあります。そこで当店では、鏡のご相談をいただいたときに、まず写真を見せていただくか、現地で確認する工程を先に置いています。
写真をお願いする理由は、見た目でひどさを測るためではありません。ここまで書いたとおり、見た目の程度は答えになりません。写真で増えるのは、曇りが鏡のどのあたりに出ているか、光をどう乱しているか、まわりの部位はどうなっているか、といった手がかりのほうです。手がかりが多いほど、こちらの見立ての幅がせまくなります。
そのうえで、写真だけでは決めきれない部分が残ることも、先にお伝えしています。実際に面へ触れてみないと分からないことがあるためです。現地で見て想定と違えば、その場でご相談し直します。
洗面台の鏡も、同じ理屈で見ます
洗面台の鏡は、浴室ほど水がかかりません。そのぶん、飛んでくるものに歯磨き粉や整髪料、化粧品といった細かい飛沫が混ざります。乾くたびに同じ位置へ残っていく、という筋道は浴室の鏡と同じです。
ここでも、見た目の程度から落としやすさを読み取ることはできません。ご相談の手順も同じで、まず状態を見せていただくところから始まります。
ウロコを落とす作業と、コーティングは別の施工です
混ざりやすいところをはっきりさせておきます。鏡のウロコを落とす作業は、コーティングに含まれるものではありません。それぞれ別のメニューです。
コーティングは、きれいにした面を保つための施工です。裏を返すと、落とす工程が済んでいない面には施工できません。順番としては、まず今の状態を見て、落とす作業が要るかどうかを決め、そのうえでコーティングに進みます。
落とす作業を行った場合も、面の状態によって仕上がりに差が出ます。どこまで戻るかは、やはり現物を見てからのお話になります。なお、使い始める前の鏡には、この積み重ねがまだ1回も起きていません。落とす工程そのものが要らないという違いです。使い始める前と後で工程がどう変わるかは新築の水まわりコーティングは必要かに、場所ごとに書いています。
鏡に使うのは超親水コーティングです
鏡を守る側の話も書いておきます。浴室の中でも、鏡だけは他の部位と使う剤が変わります。
浴槽や床では、硬さのある膜をつくるセラミックコーティングが保護性能重視の選択になります。ところが鏡にはセラミックコーティングを使いません。鏡に使うのは、水垢の付着を抑えることに特化した超親水コーティングです。鏡に要るのは硬さより、乾いた成分が面に居座りにくいことのほうで、鏡に対してはこれが最も保護力のある選択になります。
ただし、コーティングをすれば水滴が飛ばなくなるわけではありません。浴室を使えば、鏡に水はかかります。変わるのは、かかった水が乾いたあとに残るものの居座りにくさで、日々の拭き取りと組み合わせて差が出ます。浴室全体で何がどこまで変わるのかは浴室コーティングの効果に、剤そのものの違いはフロアコーティングの種類と特徴にまとめています。部位ごとの内容は単品ごとの価格表で見られます。
持ちの年数については、こちらから断定しません。水のかかり方、換気、拭き取りの習慣で変わります。同じ浴室の中でも、鏡と浴槽では条件が違います。
よくある質問
写真を送れば、落とせるかどうか分かりますか?
写真だけで言い切れる、とはお約束できません。写真で増えるのは手がかりで、答えそのものではありません。ただ、写真があるかないかで見立ての幅は変わるので、まずは見せていただくところからお願いしています。
ひどく曇っているので、もう手遅れでしょうか?
そうとは限りません。見た目のひどさと落としやすさは対応していないので、曇りが強いことだけを理由に諦める必要はありません。逆に、薄く見えるから簡単だとも申し上げられません。どちらも現物を見てからになります。
ウロコを落とす作業は、コーティングに付いてきますか?
付いてきません。落とす作業とコーティングは別のメニューです。まず状態を見て、落とす作業が要るかどうかを決めてから、コーティングに進む流れになります。
鏡だけ頼むこともできますか?
できます。浴室は部位ごとに分かれているので、鏡だけを選ぶことも、まとめて選ぶこともできます。
コーティングをすれば、鏡は曇らなくなりますか?
曇らなくなる、とは言えません。浴室を使えば鏡に水はかかります。変わるのは、乾いたあとに残るものの居座りにくさのほうです。
洗面台の鏡も同じですか?
仕組みは同じです。飛んでくるものの中身は違いますが、乾くたびに同じ位置へ残っていく筋道と、見た目から落としやすさを読み取れない点は変わりません。
まとめ
浴室の鏡が白く曇るのは、水道水に溶けていた成分が、乾くたびに同じ位置へ残って重なっていくからです。表面に乗った汚れではなく、面の細かい凹凸に入り込んで固まったものなので、上から拭く力が届きません。そして見た目のひどさと落としやすさは一致しません。ひどく見えても戻ることがあり、薄く見えても動かないことがあります。その地域の水質や、混ざったまま放置された期間などが重なって決まるため、こちらから先に境目を引くことができません。だからご相談は、写真を見せていただくか、現地で確認するところから始めます。ウロコを落とす作業はコーティングとは別のメニューで、鏡に使うのは超親水コーティングです。